中国の貴州省の山間部に暮らす少数民族トン族は、歌の民と呼ばれ、壮大な歌の文化を持つ事で知られています。
彼らの生活の中には、自然信仰に基づく鳥や虫の声を模した歌や、ラブソング、歌掛け、酒飲み歌、わらべ歌、民族の歴史を伝承する歌など、あらゆる歌が存在します。彼らの伝承するアカペラのポリフォニー合唱「トン族大歌」はユネスコ世界無形遺産にも登録されるなど、その素晴らしさは世界にも知られています。
彼らはその昔、日本に渡り稲作を日本に伝えた人々の末裔とも言われており、また日本の飛鳥時代と同じ建築技術を保持しているなど、日本人の祖先と共通の文化を持っています。
彼らの音楽や文化を体験する事は、私たちの祖先がどんな生活をし、どんな音楽文化を持っていたかを想像する手がかりにもなるでしょう。
2018年の6月2日からの17日間、坪内あつし、菜央、1歳になったばかりのみはるの坪内一家3人は、トン族の地を旅しました。
旅の目的は、トン族の人々と生活に触れ合い、彼らの音楽と共演して録音作品を制作する事です。
中国貴州省の従江県、榕江県、黎平県の、小黄村、黄崗村、宰荡村、大利村、苗蘭村、岩洞村に滞在し、 各村の伝統音楽家と交流、共演し、レコーディングを行いました。
ありがたいことに素晴らしい人々との出会いに恵まれ、想像以上の成果を得る事ができました。
その旅の体験をシェアするために、その軌跡となる当時の日記をここに記録します。
(皆様のご協力により、完成したCD作品はこちらです。
また完全版、ハイレゾ版もあります。詳細はお問い合わせください。)
※ここからは、SNSに投稿した写真と映像を含めた日記を、ほぼ当時のまま記録しています。
2018年6月2日 SWW 中国少数民族編 旅日記その①
中国、桂林に到着〜トン族の地へ
今回のSWW第4弾はあつし、菜央、みはるの家族3人編成で中国へ来ています。
まずは名古屋から上海乗り継ぎで桂林へ。乗り継ぎの上海でもみはるはあらゆる人に愛想を振りまきまくり、韓国人のおばちゃんも大喜びで遊んでくれました。
飛行機から見る桂林は緑が多く良い感じです。
荷物は楽器、機材でいつも通り多く、さながら引っ越しのよう。
到着しまずは桂林米粉という麺料理を食べて腹ごしらえ。
ベースはしょうゆ味で日本と変わらない味付けですが、後乗せ激辛スパイスで劇的に世界が変わる。美味かった。
まず、中国と日本が政治的に仲が良くない国だから大丈夫か?と心配してくれた人もいましたが、ここまで出会った中国人に日本人だと言うと、喜ばれるだけで、嫌な顔するような人は1人もいませんでした。
こちらが中国語わからないのですが、みんな同じ仲間として喋りかけてくれます。
中国が嫌いな日本人や日本が嫌いな中国人は、ただ報道などに踊らされているだけかもしれません。
人と人の繋がりに、国籍や政府は関係ありません。
だいたい、東アジアの中にいろんな民族がいて、みんなその中の1つであるだけです。
その言語とか文化を持っているという違いだけで、顔はあんまり変わらないし、血は混じり合ってるので、そもそもかなり近い兄弟という事です。
そして翌日、トン族の地へ。まずは高速鉄道とバスで従江という町へ向かいます。
そこからタクシーで今回目指す村、小黄(シャオファン)村へ。歌の郷と言われ、トン族の中でも特に音楽が盛んな村ということです。
村へ行く途中、トン族の伝統建築や民族衣装を着た人が増えていきます。
2018年6月2日 · SWW 中国少数民族編 旅日記その②
トン族の歌の郷、小黄(シャオファン)村へ到着~酒歌の宴会
日本の田舎の風景とそっくりな山道をひたすら走り、小黄村に到着。
清泉歌堂という良い名前の宿を取りました。
目の前に小川が流れ、全部木でできた素敵な建物。
クギを使わず、組み木でできた構造になっています。
夕方になり、さっきまでひたすら麻雀をしていた男達がご馳走が並んだ円卓に集まります。
そこに民族衣装の正装をした若い女性4人組が到着し、宴会が始まりました。
この女の子4人組は実はなんと酒呑ませ歌隊で、歌いながら酒を飲ませて周ります。
飲んでいる酒は茅台(マオタイ)酒といって貴州省名産のアルコール53度の強い酒。
到着早々、トン族の酒飲み歌「敬酒歌」に触れる事ができました!!!
素晴らしい歌だ、これは酒が進むだろ~~
と思っていたら期待通り僕にも呑ませ隊が周ってきました 笑!
しかし一度に三杯飲まされるとは、、
その後はすごい勢いで酔っ払って飲めや歌えや、太鼓叩いてドンチャン騒ぎセッション!
トン族、最高です!!!
2018年6月4日 · SWW 中国少数民族編 旅日記その③
小黄村トン族のおばあちゃんの歌
おばあちゃん達が歌を披露してくれました。素晴らしいポリフォニー。真ん中の人がリードパートのようです。
2018年6月6日 SWW中国少数民族編 旅日記⑤
トン族の音楽家とレコーディングしました!!!小黄村の楽隊との共演です。
2018年6月6日 SWW中国少数民族編 旅日記⑥
トン族の歌の都、小黄村にて。小黄村最高の歌師、パン・サユヌファさん達とレコーディングしました!!!
2018年6月8日 SWW中国少数民族編 旅日記⑦
小黄村ではマスター歌師のパン・サユヌファさん達3人とレコーディング。
素晴らしいポリフォニーの歌をたくさん歌ってくれました。
おばあちゃん方の歌は超マジカルで本当に素晴らしかった。
合わせるのが難しかったけど面白いものが録れました。
夜には村一番の楽師ウーヨンテーさんの楽隊とレコーディング。
素晴らしいアンサルブルで大ピパ、小ピパ、ニューテイチンという3種類の弦楽器と女性2人に来てもらいレコーディングしました。
超かっこいいのが録れた!
村に子供が産まれたらしく、豚をさばいてお祝いがありました。
トン族料理。
豚の生肉と生き血、内蔵と唐辛子を和えたタレなど、野生味溢る未体験な味わいの料理に舌鼓を打ちましたが、2日間ずっとこれだったので完全にお腹を壊しました、、
小黄村を離れ、次は黄崗村へ。
2018年6月8日 SWW中国少数民族編 旅日記⑧
小黄村の活動を終えて、隣の黄崗(ファンガン)村へ。
黄崗村は田舎風情があふれ、本当に素朴で素敵な場所でした。
早速そこの音楽隊に来てもらい、こちらと交代でパフォーマンスしたり、一緒にセッションしたりして交流。
中国では貴重な英語を話せる方がいたので、歌詞の内容を通訳してもらって歌を教わりました。
そして覚えた歓迎の歌と輪踊りをみんなでやりました。
夜は宴会!
米焼酎!
豚の血料理!
豚の血料理は歓迎の意味があるらしく、ありがたくいただきました。
しかしお腹が治らない、、
これを消化する酵素が足りてないようです。
最高な村なのでもっと滞在したかったけど、この山奥で中国元が尽きそうになり一泊だけの滞在に。
出発する車の横ですごい合唱が聴こえてきたりして、後ろ髪引かれましたが、次の地へ!
またみんな連れて来たい黄崗村でした!
2018年6月9日 SWW中国少数民族編 旅日記⑨
従江県から隣の県、榕江県へ移動しました。
そして榕江で一番の音楽がすばらしいと言われる宰荡(ツァイタン)村へ到着しました。
ツァイタン村はかなりのどかな田舎です。
見かけるのはお年寄りばかりですが、みんな身体をフルに使って働いています。
ひたすら道をほうきではいているレレレのおじさんのような人もいます。
石運びをしている人に試しに代わって持たせてもらったら、相当重かった。
みんな見た目以上に力持ちです。
マスター歌師のフォガンメイさんを訪ねました。
観光客グループのためにご馳走の準備をしていて、旦那さんが鶏をさばいていました。
昼食が始まると、娘さん達が敬酒歌を歌ってお酒を飲ませて周ります。
昼食後はこちらが少しパフォーマンス。
そしてフォガンメイさんにわらべ歌を一曲教わりました。
みんないい人で素敵な村です。
ひたすらご馳走を食べさせてくれるのですが、お腹の調子が良くならず、、少し休憩しながら活動続けます、、
2018年6月10日 SWW中国少数民族編 旅日記⑩
ツァイタン村のラブソング
泊めてもらっているお家の人が実は歌がすごく上手い人だったので、楽師のおじさん方2人に来てもらい一緒に録音しました。
素晴らしく美しいラブソングです。
2018年6月11日 SWW中国少数民族編 旅日記11
トン族の芦笙(ろしょう、ルーシャン)
ツァイタン村にて。トン族には日本の笙の原型の芦笙(ルーシャン)があります(おじさんはショウと呼んでいて驚きました。)。
前日に来てもらった楽隊のおじさん含め6人のご近所のおじさん方に来てもらい、セッションレコーディングしました。
大小さまざまな笙で圧倒的なアンサンブル(※言葉で表せないので聴いてください)!
世界はまだ知られざる音楽がたくさんあります!
それに触れられてありがたい!
しかもその全部とセッションしたい!
という野望をあらためて思います。
地球と共鳴する音楽。
地球と、宇宙と共鳴したいという欲求なのかもしれません。
そしてそれは人類や生命普遍の事なんだと思います。
ここでは鳥や蝉や虫、水の流れの音に囲まれた生活があります。(※ただし急速に失われつつあります!)
2018年6月13日 SWW中国少数民族編 旅日記12
大利(ダーリー)という村に来ました。
山の中にある本当に素敵な村です。
美しい村で特に古い建物があるらしく観光客は毎日少しずつ来ています。
村の入り口で村の女性たちが門を塞いで通せんぼする歌と歓迎する歌で来訪者を迎え入れたりしています。
5人の女性に来てもらい、歌とレコーディングしました。
レコーディングだから正装しないていいよと言ったら、白い衣装を着て来てくれました。
ボイスグループのつむぎねとやってるみたいでした 笑。
後半で酒飲み歌をリクエストしたら、酒を飲ませないと歌えないと言われ、一曲ごとに飲まされ、そのまま飲み会に突入してしまいました 笑
録音はまたもや良いものが録れました。
今回は幸運な事にこの短期間で良いものがたくさん録れ過ぎて、CD1枚に収まりきらないからどうしようかと思ってます。
明日は更に音楽が深そうな村へ向かいます!!!!!
2018年6月15日 SWW中国少数民族編 旅日記13
旅も終盤に入り、今回滞在する村はここで最後になるかもしれません。
山を越えてまた越えて、苗蘭(ミャオラン)という村に来ました。
中国人の観光客もまず来ない、地元の人しか知らないような奥地の村です。
とにかく音楽が素晴らしい。という地元情報をたよりに、辿り着いた小さな村。
もしかしたら日本人が来たのは初めてかも知れません。
けれど、みんな親戚のおじさんのように親しみのある顔で、かなり近い仲間だと思います。
おまえトン語わからないのか?といわれ、いやいや日本人です、というと相当驚かれます。
中国の中でも貧困の村という扱いになるみたいですが、みんな活き活きしててよく笑って本当に楽しそうです。
トン族は日本に稲作を伝えた人々の末裔だと言われています。
日本人のルーツ。
その生活がどんなものだったのかというと、この村の様だったんだと思います。
そしてその生活から産まれる音楽とは?
今回の旅の核心です。
苗蘭村の歌師(※歌のマスター、指導者、伝承者)、陽国桃(ヤンコータウ)さんにお会いして、村の人々に集まってもらうようお願いしました。
トン族の合唱、大歌を歌ってもらうためです。
翌日、鼓楼(※トン族の村にある集会所、祭祀場になる塔)に正装で集まってもらい、レコーディングを行いました。衣装も素晴らしく、美しい。
予算があまり無いので10人でとお願いしたのですが、総勢17人も来てくれて、完全な大歌を歌ってくれました!
本当に素晴らしかった!
これまで聴いた大歌と違い、まだ観光客が来ない村なので、よりネイティヴで宇宙的な感覚でした。
隔絶された山の中の生活で、先祖から伝わる壮大な神話から民族の歴史を、歌に乗せて脈々と受け継がれているのであろう事を感じました。
農耕を中心とした生活で、合唱でみんなと息を合わせ、そして田んぼや生き物と息を合わせてハーモニーしている。
地球の一部として、その呼吸として、歌っている。
この村の人々がこんなに楽しそうなのは、この大歌を歌っているからなんだ思いました。
今後、観光客が来はじめて開発が進むと、また音楽も変わってくるんだと思います。
今回ここまで来れて、この大歌に出会えて本当に良かった。
この大歌とセッションしてレコーディングしました。
民族の歴史に対して1人の人間がセッションとは畏れ多いですが、自分が世界を吸収し、宇宙と共鳴して成長するために一番やりたい事です。
大歌の全てを熟知されている歌師のヤンコータウさんが素晴らしい人徳者で、言葉がほとんど通じないにも関わらずこちらのやりたい事をよく理解してくれ、入る部分をガイドしてくれて自然に気持ちよく合体する事ができました。
今回の集大成的なレコーディングになったと思います。
2018年6月19日 SWW中国少数民族編 旅日記 14
苗蘭村を去り、残りの数日。
観光地になっている黎平県のトン族の村で物産品を買いつけようと思って、バスで行ってみたら、入り口で入場券を買って入る巨大テーマパークのようになっていました。
数年前までは普通の村だったみたいなのに、、ツーリズム開発恐るべし!入場料も中の宿も高かったので、入場ゲートで慌てて下車して引き返しました。
バスが無くなったので黎平の街で一泊。
今回初めてのトン族の街を少し歩きました。
ちょっとした都会なんですがみんな路上で野菜や果物などを売っていて、良い感じでした。
鴨を籠に入れて売っている人がたくさんいて、朗らかな街でした。
翌日、音楽で有名な岩洞村という村に来ました。大きめの素敵な村です。
さっそく村の音楽家に来てもらい、トン族琵琶歌と大歌とセッションして録音しました。
やはり素晴らしかった!
今回まだ録音していなかったジャンルの音楽が録れました。
今回の旅で3つの県の6つの村を巡り、6時間分ぐらい録音して、トン族の素晴らしい音楽をかなり網羅したと思います。
ピンポイントでクオリティの高い音楽を探して見つけて全部セッションしました。
完成を楽しみにしていてください!